北海道大学大学院保健科学研究院病態解析学分野

病理・免疫検査学研究室

Pathology and Immunology Labo, Department of Medical Laboratory Science, Faculty of Health Sciences, Hokkaido University

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スタッフと大学院生の研究

本研究室では、自己免疫疾患などの難治性疾患の病因解明と新しい病態評価法や治療法の開発を目指して研究を行っています。「ANCA関連血管炎の発症機序解明」では、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)と好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)に着目し、ANCA関連血管炎ではこれらが悪循環していることを明らかにしました。「好中球細胞外トラップの異常と疾患」では、生体防御に不可欠なNETsが適切に形成または分解除去されないことが、さまざまな疾患の病態形成に関与していることを明らかにしています。「抗糸球体基底膜抗体の産生メカニズム」では、ANCA関連血管炎患者の一部に認められる抗糸球体基底膜抗体が、なぜ産生されるのかについて研究しています。詳細は以下をご覧ください。

2020年度卒業研究

2020年度の卒業研究は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の影響により、オンラインにて実施することとなりました。本研究室に配属された卒業研究生(学部4年生)と大学院生が協力し、COVID-19について調査研究を行っています。(学内資料のため、閲覧にはIDとパスワードが必要です。閲覧を希望する場合は、 までご連絡ください)

ANCA関連血管炎の発症機序解明

ANCA関連血管炎は、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)の産生を特徴とする小型血管炎です。感染などの刺激を受けて活性化した好中球は、ANCAの対応抗原であるミエロペルオキシダーゼ(MPO)やプロテイナーゼ3(PR3)を細胞膜に表出します。これにANCAが結合することによって好中球はさらに活性化され、タンパク分解酵素や活性酸素種を放出したり、好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)を形成したりして、血管内皮細胞を障害します。また、NETsはANCA抗原の供給源ともなり、新たなANCAの産生にも関わります。私たちは、ANCA関連血管炎の発症にANCAとNETsを介した悪循環(ANCA-NETs悪循環)が関与することを明らかにしてきました。

Nakazawa et al. Nat Rev Rheumatol 15(2): 91-101, 2019.

好中球細胞外トラップの異常と疾患

好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)は、細菌などに感染した際に活性化した好中球が放出する構造物です。NETsは好中球自身のDNAに様々な抗菌タンパクが絡み合った構造をしており、細菌を捕捉し、そして殺菌します。NETsによる感染防御機構は自然免疫のひとつとして重要な役割を担っています。一方で、抗菌タンパクなどの様々な物質を細胞外に放出することは、血管内皮細胞の障害や血栓の形成など生体に負の影響を与えます。そのため、役割を終えたNETsは血漿中のDNase Iにより速やかに分解されます。

私たちは、これまでにいくつかの疾患や病態について、NETs形成異常や制御異常が生じることを明らかにしてきました。抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の病変部にはDNase Iにより分解されにくい性質のNETsが形成されていました。唾液にはNETs誘導能があることが報告されていますが、再発性のアフタ性潰瘍を呈するベーチェット病患者の唾液ではNETsの誘導能が低下していました。また、様々な病気や炎症により組織は低酸素になりますが、低酸素は通常のNETsとは異なる形態でDNase Iに抵抗性のNETsを誘導しました。NETsの形成異常や制御異常に着目し、様々な疾患の病因・病態の解明に取り組んでいます。

抗糸球体基底膜抗体の産生メカニズム

抗糸球体基底膜(Glomerular basement membrane: GBM)抗体とは、肺胞や糸球体の基底膜を構成しているIV型コラーゲンの非コラーゲン領域(NC1ドメイン)に対する自己抗体です。抗GBM抗体の認識部位(α3(IV)NC1)はIV型コラーゲンの三量体を形成するNC1ドメイン同士の結合による六量体形成によって立体構造的に隠されて、隔絶された状態にあるため、通常は自己抗体が産生されることはありません。しかし、何らかの原因で認識部位が露出状態となることで、自己抗体が産生され、それらが基底膜に結合することで抗糸球体基底膜抗体病を発症します。私たちは、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)関連血管炎患者に抗GBM抗体が産生されることがあることから、抗GBM抗体産生におけるANCAの関与について研究しています。

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